「配慮」が「不満」に変わる時 ―― 「お互い様」を機能させるインクルージョンの境界線
「あの子ばかり、ずるい」
もし、職場の片隅からそんな声が聞こえてきたら、経営者や人事の皆様は胸が締め付けられるような思いがするのではないでしょうか。
育児や介護、あるいは体調の不安など、個々の事情を抱える社員に対して丁寧な「配慮」を重ねている。それなのに、なぜか現場には冷ややかな空気が漂い、周囲のメンバーに疲弊感が広がってしまう……。こうした「良かれと思って始めた配慮が、新たな不満を生む」という葛藤は、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を進める多くの組織が直面する、きわめて生々しく切実な課題です。
善意の配慮が、なぜギスギスした空気を作るのか
心理学には「衡平(こうへい)理論」という考え方があります。私たちは、自分が組織に注ぐエネルギー(インプット)と、そこから得られる報酬や承認(アウトカム)のバランスを、周囲と比べて無意識に推し量っています。
誰かへの「配慮」によって業務のしわ寄せが周囲にいった時、カバーする側のインプット(負担)だけが増え、それに対する十分な「承認」や「還元(アウトカム)」がないと、天秤のバランスが崩れ、不公平感が一気に高まってしまうのです。
一方的な「配慮」から、双方向の「お互い様」へ
この偏りを防ぎ、組織全体の信頼関係を守るためには、配慮を「一方的な免除」に終わらせず、お互いの「貢献の再定義」を行うことが大切です。
- 配慮を受ける側: 「限られた条件(時間や場所)の中で、自分は組織にどう貢献できるか」を自律的に考え、主体的に役割を果たす。
- 周囲のメンバー: しわ寄せをカバーする彼らの踏ん張りや貢献に対し、組織や上司が「あなたのおかげでこの体制が維持できている」と言葉を尽くして、目に見える形で承認の光を当てる。
D&Iの本質は、誰かの負担を別の誰かに背負わせることではありません。 お互いの「今できること」を認め合い、誰もが「自分は組織の役に立っている(貢献者だ)」と実感できる対話の土壌を育むことです。
日々、人と組織の間で悩み、より良い形を模索されている皆様の温かいご尽力こそが、この「お互い様」の種火を大きく育てる一番の力になります。葛藤の先にある、全員が誇りを持って働ける組織への道を、これからも一緒に一歩ずつ歩んでいきましょう。


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